2015年の道路交通法改正により、それまであいまいだった自転車の危険運転について規制されるようになりました。
同時に「自転車でのイヤホン使用は違法なのか?」という疑問が急増しています。
こちらの記事で解説してるように、ほとんどの都道府県では自転車でのイヤホン使用が規則化されています。
ただ”イヤホン使用が危険”というのはあくまで感覚的な話であり、客観的な基準があるわけではありません。
では、なぜ自転車運転中のイヤホン使用は危険なのでしょうか?
実は自転車運転中のイヤホン使用の危険性ついて様々な機関で研究されており、イヤホン使用は危険という結果も出されています。
本記事ではそれらの研究結果も交えつつ自転車でのイヤホン使用が危険な理由を書いていきます。
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自転車でのイヤホン使用が危険な理由は?
自転車でのイヤホンが危険だと言われるのには、いくつかの原因があります。
もちろん自転車やイヤホンそのものが悪いわけではありません。
どんな道具、機械であっても道具そのものがダメなわけでは無く、使い方次第で危険な物へと変わってしまうということです。
イヤホンはどこでも音楽を聴ける便利な道具ですが、自転車に乗りながら使ってしまうと途端に危険な状況になってしまいます。
イヤホンを使うと五感の一つがシャットアウトされる
人は「視覚」「聴覚」「嗅覚」「触覚」「味覚」の五感をフルに使って周りの状況を常に感じなら生活しています。
中でも自転車運転中は「視覚」「聴覚」の2つに大きく頼っています。
イヤホンで耳を塞いでしまうということは、頼りの一つである「聴覚」がシャットアウトされた状態と考えてください。
イヤホン使用でどれだけ周囲の音が聴こえにくくなるのか、東京都 生活文化スポーツ局が調査・研究を行っていますので参考にさせて頂きました。
東京都 生活文化スポーツ局の調査ではイヤホン使用による聴覚感度の低下について以下の報告がなされています。
イヤホンを使って70デシベル程度で音楽を聴取するとき、周囲の音に対する聴覚感度は30デシベル以上低下した。特に挿入型など遮音性の高いイヤホンでは最大65デシベル低下した。
70デシベルとは「レストランの店内」「幹線道路の周囲」程度の音量で、イヤホンで聴く音楽としては一般的な音量と言えるでしょう。
それよりも注目すべきなのは「聴覚感度は30デシベル以上低下した」「遮音性の高いイヤホンでは最大65デシベル低下した。」という部分。
仮に70デシベルから40デシベルまで30デシベル低下するということは、「幹線道路の周囲」程度で聞こえていた音量が「図書館の館内」程度まで静かになるということです。
また遮音性の高いイヤホンで最大65デシベル低下するとなると、70デシベルから5デシベルともはや感じることができないレベルまで感度が下がります。
この結果だけでも聴覚が完全にシャットアウトされた状態になっている事が分かります。
聴覚がシャットアウトされた状態がどれだけ危険なのかは言うまでもないでしょう。
例えばこのような経験はありませんか?
- 道を歩いている時にふと後ろを見ると、ハイブリッド車(もしくは電気自動車)がすぐ近くまで接近していた。
ハイブリッド車はエンジン音がしないため後ろから近付かれると全く気付けません。
周囲の状況を知るために聴覚がいかに大切か実感できる例です。
このようにイヤホンで耳を塞ぐと聴覚がシャットアウトされた状態になります。
しかし聴覚がシャットアウトされるのはイヤホンで耳を塞ぐことだけが理由ではありません。
普段より音量が上がってしまい周りの音が聴こえにくくなる
家の中と違い屋外では車や街中のいろいろな騒音が聴こえます。
そのためイヤホンから流れる音量も普段より大きくなりがち。
その結果、ますます周囲の音が聴こえにくくなる悪循環になってしまいます。
騒音環境ではイヤホンから流れる音量が大きくなることは、先述した東京都 生活文化スポーツ局の調査で報告されています。
静かな環境では、被験者の3分の1近くが60デシベル未満の聴取レベルを快適と感じたのに対し、73.2デシベルの騒音下では、80デシベル以上を快適と感じた被験者が34%に上った。
「屋外ではイヤホン音量が上がる」という感覚的に感じられていたことが、実験により客観的な結果としてハッキリしました。
つまりイヤホンで耳を塞いだ上に音量が大きくなってしまい、完全に聴覚がシャットアウトされた状態になってしまいます。
これだけで十分危険なのですが聴覚がシャットアウトされるだけでは済みません。
周りの音が聞こえないと視覚にも影響する
「聴覚がシャットアウトされても視覚があるから大丈夫」
と思われたかもしれません。
しかし実は聴覚がふさがれると視覚にも影響が出ることが分かっています。
聴覚と視覚の関係を調べるため、愛知県の愛知工科大学・小塚研究室の研究を参考にさせて頂きました。
愛知県の愛知工科大学では日本でも珍しい「イヤホンを使用した自転車運転の危険性」が研究されています。
その研究内での結論を一部引用させて頂きます。
両耳イヤホンの場合、横からの人の飛び出しに気付く時間は通常走行に比べて約0.2秒~0.3秒遅れることが分かった。
両耳イヤホンでは聴覚がふさがれるだけでなく視覚にも影響をおよぼしていることが分かる。
0.2秒~0.3秒と聴くとほんのわずかに感じられるかも知れませんが、自転車でスピードが出ている状態だと何メートルも進んでしまう時間です。
実際の交通現場では0コンマ何秒という遅れが致命的になってしまいます。
このようにイヤホンで耳を塞いでしまうと聴覚がシャットアウトされる上に視覚の反応も鈍ってしまうことが分かりました。
自転車運転で頼りになる「視覚」「聴覚」がどちらも低下した状態は危険運転以外の何物でもありません。
イヤホン使用を制限して効果はあるのか?
自転車のイヤホン使用は危険運転という認識が徐々に広まり、多くの都道府県では自転車運転中のイヤホン使用が規則化されています。
危険運転を禁止し事故を減らそうとする流れはとても良いことだと思います。
ではイヤホン使用を制限することで実際に自転車事故にどれだけの効果が出るのでしょうか。
イヤホン使用制限で自転車事故は減っている
「イヤホン使用を制限しても大して効果はないんじゃないの?」
と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
実は自転車運転中のイヤホン使用を制限することで自転車事故削減に一定の効果があることが分かっています。
イヤホン使用制限と自転車事故の効果を調べるにあたり「政策研究大学院大学 まちづくりプログラム」の研究を参考にさせて頂きました。
この研究ではイヤホン使用禁止の規制が自転車事故の抑制につながっているかを研究されています。
結論部分の一部を引用させていただきます。
当初想定した分析に反して、携帯電話禁止による事故抑制効果は確認できなかったが、ヘッドホンの禁止についての規制導入の効果があることは確認できた。自転車施策全体の効果を見ると、1%水準で有意に事故件数削減の効果が認められたが、これはヘッドホン禁止の効果が大きく影響していると考えられる。
少し難しい言い回しで書かれていますが、要は「ヘッドホンを禁止することで事故件数が減った」ということです。
このことから自転車のイヤホン使用制限は自転車事故を減らすために有効な方法であると言えます。
そもそも自転車は意外と危険な乗り物です
これまでの章では自転車運転中のイヤホン使用が危険であることを書きました。
しかし、よくよく考えてみると公道を走る自転車はかなり危険な乗り物なんです。
自転車は私たちにとって一番身近で便利な乗り物なので「危険な乗り物」と書くと意外に思われるかもしれません。
もちろん自宅の庭や公園の自転車コースなど隔離された場所では危険と言える程ではありません。
ただし公道を走る場合は危険な乗り物と言える理由があります。
自転車は後ろの状況が確認しにくい
自転車のドライバーは基本的に後ろが見えません。
自転車には車やバイクのようにバックミラー、サイドミラーが無いため、運転しながら後ろの状況を確認する方法が無いんです。
もちろん運転しながらでも後ろを振り返れば確認はできます。
しかし不安定な二輪車で後ろを振り返るとバランスを崩しやすく危険です。
例えば体育の授業で平均台を歩いた経験がみなさんあるでしょう。
平均台の上を歩いている不安定な状態のときに後ろを振り返るとどうなりましたか?
バランスを崩して台から落ちませんでしたか?
人の体は無意識に顔を向けた方向に進むようになっています。
運転中に後ろを向くと自転車が振り返った方向に曲がり、ふらふらした蛇行運転になってしまいます。
安全走行のためには後ろを振り向く必要があるのは間違いありません。
しかし後ろを振り向くと蛇行運転をしてしまいます。
自転車は後ろを振向いても向かなくても危険な乗り物なのです。
最近は自転車用のバックミラーを付けている自転車も多くなってきました。
いずれ自転車にもバックミラーの着用義務ができるかもしれません。
通勤・通学用自転車に後付けできる自転車用ミラーを厳選しましたのでご覧ください。
自転車はかなりのスピードが出る
自転車はかなりのスピードが出せる乗り物です。
ロードバイクやクロスバイクといったスポーツタイプの自転車だと、車やバイクと変わらないスピードが出るものもあります。
通常の自転車でも歩行者から見たら怖いくらいのスピードです。
かなりのスピードが出る割に自転車には一般的にスピードメーターがありません。
そのためスピードの出し過ぎに気付きにくいことがあります。
スピードが出ていれば事故が起きた時の被害も大きくなります。
実際に死亡事故も多く発生している危険な乗り物という認識を持ってください。
学生の事故や驚くほどの高額賠償例も多くなってきています。もはや他人事ではない時代になっていますよ。
自転車運転者の安全意識が低い
自転車には免許制度が無いため誰でも公道で運転できます。
免許が無いため誰でも乗れる身近な乗り物となっている訳ですが、一方で全然問題が無い訳ではありません。
公道では道路交通法という共通ルールに従って皆が行動しています。
しかし車やバイクに乗らず自転車だけしか乗らない人は道路交通法を勉強する機会がありません。
免許試験を受けていない自転車運転者は道路交通法を知らない人も多いため、安全運転上のルールを無視して運転している光景を良く見かけます。
もちろんルールを知っている上での行動であればもっとタチが悪いのは言うまでもありません。
また自動車では保険への加入が義務化されていますが、自転車では全国統一で規則化はされていません。
ただし近年の自転車事故の増加や高額賠償の判決を受け、全国の都道府県で自転車保険への加入義務化が進められています。
全国の都道府県では自転車保険の加入義務化が進められています。あなたがお住まいの都道府県ではどんな規則になっていますか?
全国の都道府県では自転車保険の加入義務化が進められていて、加入義務化となった一部の都道府県では保険も案内しています。
自転車保険とはどんなものか?選ぶ際の注意点と都道府県でも案内されているおすすめ保険を、ユーザが必要な保険ごとに紹介しています。
まとめ:意外と危険な乗り物な上にイヤホンまで使うと超危険!
本記事では自転車運転中のイヤホン使用が危険な理由を書いていきました。
- イヤホンを使うと視覚・聴覚の働きが低下する
- 公道を自転車で走ること自体がそもそも危険
全国の都道府県でもイヤホン使用の危険性が認識され条例で規制されているところが多くなっています。
自転車は人の命を奪う可能性がある乗り物です。
まずは「違法だから」「罰金を払わないといけないから」という理由で安全運転を心がけるのも良いでしょう。
しかし万が一の事故が起きたら被害者の人生を終わらせるだけでなく、自分の家族や周囲の人たちまで不幸にしてしまいます。
以下の本では、実際の自転車事故の事例を基に加害者となった場合の賠償など必要な知識が書かれています。
これを読めばとても危険な運転をする気にはなれません。
皆が不幸にならないために正しくルールを守り安全運転を心がけましょう。
それでは。
以下の記事には自転車でのイヤホン使用について書いたすべての記事をまとめています。
この記事を読めば一通りの情報に行きつくようになっていますので併せてご覧ください。
自転車のイヤホン使用は法律違反なのか!?情報をまとめてみる。
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